その男(68)は、警視庁捜査1課に20年近く在籍し、殺人や放火といった凶悪犯罪の捜査にあたった。専門は殺人。多くの難事件を調べ、犠牲者や遺族の無念に応えてきた自負がある。定年を迎え「元刑事」となった今、ある殺人事件が胸にしこりとして残っている。容疑者を逮捕できなかった唯一の殺人事件だ。9日で発生から25年となった。
1996年9月9日、捜査1課の警部補だった。東京都の下町を管轄する亀有署に急いでいた。火災現場から女性の遺体が見つかり、事件性が疑われるとの一報だった。
被害者は上智大4年の小林順子さん(当時21)。両親、姉と暮らす2階建ての戸建て住宅で、粘着テープなどで両手足を縛られたうえ、刃物で首を何度も刺され、放火されていた。
警視庁が「重要未解決事件」として、現在も捜査を続ける事件の発生だった。すぐに警視総監をトップとする特別捜査本部が設置され、本格的な捜査が始まった。
・米国留学への出発が2日後に迫っていた
・母親がパートに出た数十分のうちに起きた
・ほかの家族が不在だった
・直前に不審な男が家の目の前で目撃されていた
こうした状況から、捜査本部…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル